カラフルデイズ―彼の指先に触れられて―
「……オレのこと、要らなくなったわけじゃないんだ」
要が俯いてなにかを考え終わったのか、それから「ふっ」と笑いをこぼした。
なぜ笑っているのかわからないけど、それが徐々に堪え切れなくなったのか、ずっと笑い続けてる。
「来て」
無垢な笑顔で要は私の手を取った。
不意に手を引かれた力でアトリエに足を踏み入れた。こんな流れで“客人”と対面したくないと思ったけど、いともかんたんに要にグイッと引き込まれてしまって内心慌ててしまう。
「ちょっと、かな……め……」
部屋に入って一番先に目に入ったものは、窓際の大きなパネル。
「なに……あれ……」
ひとことじゃ言い表せないような色とタッチ。手描きなのか、ソフトを駆使したのか、素人の私にはさっぱり。
けど、とりあえず、これが私がさっき見た人影の正体だとわかると、ほっとした。
まぁ、それでも、あの彼女は昨日確かにここにいたのは変わらないけど。
立ち尽くし、期待してしまう想いを再び窘めるようにしていたら、要がやけに明るく話す。
「オレの学生のときの作品。“自分の中の美”。すごくない?」
隣で目を細めて、無邪気な子どもが『見て見て』と言うように私に笑いかける。
「似てない? 美雪に」
「は?」
「だって、一目惚れだし」
にっこりと笑って、恥ずかしげもなくさらりと言う要に、こっちの方が顔から火が出そうになる。
照れ隠しで顔を逸らすと、その“作品”が目に飛び込んでくる。
等身大……よりは少し小さいくらいの、横向きの女性っぽい。
顔立ちとか、そういう詳細は描かれていないけど……。髪型とか、雰囲気みたいなものが私に似てると言えばそうかもしれない。
でもそれは、あくまでも“見る人、感じる人”によると思うし。
これが“証拠”みたいに、『理由』と言われてもなんだかしっくりこない。