カラフルデイズ―彼の指先に触れられて―
胸元から再び隣を見ると、ペンを指で挟んだ手で頬づえをついてこちらを見ていた。
明るい木軸が、彼の白い手に映えて、とても似合ってると思った。
よく見てみると、すっとした長い指が頬に沿って、すごく綺麗。
指だけじゃなくて、この人全体的に細身だ。
そのせいなのか、カウンターの淡いオレンジ色のせいなのか。
繊細な柔らかな印象を受ける彼に、不覚にも目を奪われて動けなかった。
「コーヒー冷めちゃうよ」
くすっと笑って、トン、と視線を私の前にある白いカップに落とす。
そんな視線の動きまでもが、なにか他の人とは違う、感じたことの無い感覚に捕われる。
「あ、こっちもコーヒーお願いします――――ん?」
「改めまして。オーシャンコーポレーション、営業部の阿部美雪です」
その不思議な感覚をどうにか取っ払って、注文し終えた彼に、手慣れた感じで名刺を差し出した。
名前はもう知られているみたいだけど。
だけど、社会人(大人)として、こういうことって必要だと思うし。なにより、相手の名前を聞くには、自ら名乗らないと。
カチッと仕事スイッチを入れて、落ち着いた笑顔を取り戻す。
私の名刺を受取った彼は、その名刺を見もせずに胸ポケットに入れた。
「そうか。オレだけ阿部さんのこと知っててずるいもんね?」
「いえ……別にずるいとかは――」
「オレは要。本庄要(ほんじょうかなめ)。ごめん、名刺、今持ってないや」
“KANAME”は要なんだ。
名前かどうかはっきりとわからなかったから、呼ぶことも出来なかったけど、これで話しやすい。