カラフルデイズ―彼の指先に触れられて―

口を覆われたかと思えば、触れるか触れないかというギリギリな距離を置かれるともどかしくて。
その私の気持ちをさらに焦らすかのように、要は私の唇をなぞるように触れ、下唇を甘噛みした。


「っ……はぁ……んん!」


主導権は今や完全に要。吐息を出した、一瞬の私の唇を割って入り、深い深いキスをする。

この心身ともに苦しいキスが、忘れられなかった。
胸の奥が締めつけられるような感覚と、なぜだか泣きたい衝動に駆られる。

もちろん、負の涙ではなくて。


「――泣いてるの……?」


片方の瞳から、一粒だけ落ちた雫に気付いた要が静かに言った。


「別に……イヤ、とかそういうのじゃないわ」


そう答えると、じっと動かずに私を見てる。


「……知らなかったわよ。好きになると、涙が出るなんて」
「オレも」
「……なにがよ」
「好きになるとこんなに臆病になるなんて、知らなかった」


歪な笑顔の原因は、それ……。
怖いものなんかなにもないんだろうと思ってた。ついさっきまで――。


昨日と同じ、切なそうに笑う要の顔を両手で掴む。


誰だって傷つくのは怖い。
でもなにもしないままじゃ、傷はつかないかもしれないけど、それ以上のものを手に入れることも出来ない。



< 190 / 206 >

この作品をシェア

pagetop