カラフルデイズ―彼の指先に触れられて―
「……本当はダメだと思ってるけどね……。そういう本能という、“自己中心的考え”しか出来ないデザイナーなんて」
――仕事の悩みは大抵の人間は抱えてるはず。
それは要も例外ではないってことで――……。
「……それでもちゃんと、誰かの“特別”にはなってるはずでしょ。今や、大手文具メーカーまでもが“KANAME”を必要としてるんだから」
「ふ」と、いつもにはない、哀愁漂う顔で静かに笑う。
満たされてない、淋しそうなその笑顔が、私を勝手に動かした。
「……もっと言えば。“本庄要”という人間を必要としてる人間が、“ここ”にいるでしょ――ッて言ってんのよ」
初めて自分から抱きしめた要の背中は、思ってたよりも大きくなくて。
名前が売れても、顔が美形でも、人が羨むような背景に見えても。
ただの一人の男だ。
「ん」
背中にくっつけていた顔に響いた声は、ぎこちなさの残るような短い返事。
でも、笑ってる、と背中越しでも感じられて胸が温かくなった。