カラフルデイズ―彼の指先に触れられて―
クリア


「わぁ! ここまでくると、本当早いですよね! もう試作品ですか?!」


数日して、あっという間に“カタチ”になってきたオリジナル品を、神野さんが陶酔したような表情でそれを手にしていた。


「さすがにガラスは使用できないから……まぁ、目新しいものでもないかもしれないけれど、スケルトン素材を」
「ええ。でも、インクの種類が他のメーカーと比べて断然多いので、いろんな色に見えて楽しいですよね」
「でもインクって、パッと見、全部黒っぽく見えるわよ?」
「はい、でも」


彼女はさっそくガラスケースの上に置いてある、サンプルのボトルインクの蓋をあけて吸い上げる。
そして、私の目線に合わせた万年筆を、ゆっくりと傾けて見せた。


「こうやって、軸の中を流れていく僅かな色がかざすと綺麗ですし。それに、インクのゆっくり流れる動きもまた、水時計みたいで……あれ?」
「どうかしました?」


ぴたっと手を止め、寄り目になるくらいに万年筆を凝視する神野さんに問う。


「……クリップ、ただのステンレスじゃないんですか?」
「もうバレた? ちょっと特殊な材質を使用してるのよ。普通のステンレスよりは、角度によって七色のように見えるでしょう?」


「へぇ!」と大きく感嘆して、神野さんはいつまでも手に万年筆を持ち、飽きずに眺める。
それも、やっぱり、嬉しそうに。


いつしかそんな彼女を見るのが好きだし、その様子に重ねて、近い未来のお客さんを想像する。
きっと、その影響。意識的に、“誰かの為”、と仕事をしているのは。


「なんか透明(クリア)色って、阿部さんっぽいです」
「え? なに?」
「なんか“見本”って感じの。そんな素敵なキャリアウーマン……私の視点ですけどね」


生きていたら、やっぱり、誰かには自分を見ていて欲しい。
仕事や勉強――それらを頑張っていくことはひとつの手段。『私は頑張ってる』と、主張する、それ。

だけど、全部報われるかと言えばそうじゃない。
大抵の人たちは、影に気付かず光に注目する。要は、“結果”だけを見がちということかもしれない。

誉められれば、苦労は報われるし、次への糧にもなる。けど、出来れば自分は、人の努力の過程を見ていける人になりたい。

30を過ぎて、いまさら、そんなことを思った。


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