カラフルデイズ―彼の指先に触れられて―


今日は定時後にオフィスに戻った。
営業部に近づくと、意外にも灯かりがついていて拍子抜けした。


「……誰もいないと思ってたのに」


扉を開けて、開口一番がそれ。
私の言葉に、不満そうな声をあげたのは森尾さん。


「今日、『資料チェックする』って言ったの阿部さんじゃないですかぁ」
「あ。ごめん。そうだったわ」
「ひ、どーい! もう、あたし、別に資料立派に作れなくてもいいですからっ」
「『立派』だなんて十年早いわよ」


ブーブー言うのは毎度のこと。
でも、最近は扱いに慣れてきたのかなんなのか、そこまでストレスを感じなくなった。


「資料とか、そういうのニガテなんですよぉ。修理品チェックの方が、あたし、いいです」


その言葉に、溜め息をあからさまについてやった。けど、実は少しそんな話も嘘ではないことを私は知った。


この間、浜さんからまた、久しぶりに連絡があったとき。


『いやー、あの子。最近修理品はその場で見て行ってくれるんだけど、なかなか手先が器用でね。ちょっとの故障なら、パーツ見てなんかうまくやってるよ。
おかげでお客さんはすぐに返却してもらえて助かるって好評だ』


口を尖らせて、相変わらず自分のネイルを気にしてブツブツ言ってるけど。
そのネイルの手先の器用さとか、案外捨てたもんじゃないみたいね。


それから、「早すぎです」と半べその森尾さんの指導を終えたころ、ドアが開いた。


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