カラフルデイズ―彼の指先に触れられて―

「神宮司さぁん!」
「お。お疲れさん」
「はい! もう疲れたのでお先に失礼しますー」

確かにもう終わったけど……。
相変わらず、その辺要領いいって言うかなんていうか。


森尾さんの帰宅準備の早さに唖然とし、颯爽と彼女の出て行ったドアを見たあと、神宮司さんと苦笑した。


「どうしたんですか?」
「んー、いや、あのさ。……本庄からなんか連絡きてない?」


久しぶりに営業部で会った気がする。
とはいえ、あれから、外でも会ってたわけじゃないけど……。だから、一体どんな用件か少し構えてしまったけど、それ以上に困惑する質問。


「ほ……んじょうさん、ですか。いえ、特に――――」


森尾さんの隣の席にいた私は、椅子を立ち、後ろの自席近くの神宮司さんを見る。


――あっ! デスクの上に、そういえば……!


思い出して慌てるも、一足遅く。神宮司さんが“ソレ”を先に手に取ってしまう。


「……いや、その……ちょっと、感化されたというか……」


ごにょごにょと言い訳がましいことを口の中で呟いて、神宮司さんの手からその紙を奪い取る。


「お前……そんなの出来んなら、企画とか開発に異動出来んじゃねぇの?」


『参った』というような笑いで神宮司さんが言った。
私の手の中にある用紙は、ちょっとした発案書のようなもの。


全然形式に沿ってはいないと思うけど、思いつくままこっそりとやってみてただけ。
別に、異動したいだとか、そういう方面に興味が湧いたとかじゃない。

だから余計に、そんな中途半端なものを見られたら恥ずかしいじゃない。


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