カラフルデイズ―彼の指先に触れられて―
なんか、調子が狂う。話を続けても、変化球が返って来るような要のパターンに振り回される気がする。
ここは大人しく、距離を保って引いた方がよさそうね。
私は要のぶれない視線を無視して、冷たくなったコーヒーを一気に流し込む。
いつもはこんな失礼な飲み方しないけど……今は仕方がない。
カチャンといつもより少し大きな音を立ててカップを置き、伝票を手にして席を立った。
「ごちそうさまでした」と店員へ伝え、ちらりと要を見る。
ずっと私を見ていた要と目が合うのは容易なことで、一瞬視線がぶつかると、私は視線をふいっとそらすように会釈をした。
「――それでは。失礼します」
カバンを手にして一歩踏み出し、要の後ろを通り過ぎようとしたときだった。
「オーシャンとは、ぜひ仕事をしたいと思ってる」
その言葉に、つい足を止め、要の背中を見る。
白いシャツがオレンジの照明で影をくっきりと作り、まるでオブジェのよう。
ふわふわと軽そうな茶色の髪が、いっそう明るさを増して天使の輪を作る。
すると、椅子ごとくるりと要は回転して私に向き合った。
「だから、これからよろしく。美雪」
間近でよくよく見てみると、シャツだけじゃなくて、要の顔もなにかの芸術品のように整っていることに気付いた。
カタチのいい眉色と色素の薄い透明感のある瞳。その間を通る鼻筋はスッとして。ちょっと薄い唇は、いつでも少し口角があがってる。それが生意気さを感じるひとつの理由かもしれない。
「ありがとうございます。でも、私は営業なので直接お会いする機会はないと思います」
「オレが会いに行けば別でしょ?」
「今言いましたけど? 私は営業なので、ほとんど社にはいませんから」
きっぱりと言い切る私に、要は初めて少し目を大きくした。
そしてそのあと、楽しいことを見つけた子供のような顔をして言う。
「いいね。ますます好きになったよ」
要の肩越しに、カウンターの上に転がってるブラウンの木軸が、やけに輝いて見えた。