カラフルデイズ―彼の指先に触れられて―


「それでは、また明日。失礼します」


一人で得意先を回る時間が一番ラク。
誰に気を遣うこともなく、スケジュール通りに仕事をこなせる。


お客さんの店を出たところで、腕時計の小ぶりな文字盤を確認する。


うん。いい時間。あとは、このまま会社に戻って、受注整理して――。あと早めに弐國堂のオリジナル商品のアイデアをまとめないと。

やることは、尽きなくて。手を抜こうと思えば抜けるだろうけど、そう出来ないし、したくない。

“完璧主義”と言ったら仰々しいけど、自分はそれに近い性格だと思ってる。

それを他人にも無意識に強要しているのかもしれない。
そこは素直に反省すべき点ではあると思うけど、自分のそんな性格は特に悪いことではないと考えてる。


人より長けていたい。褒められたい。必要とされたい。

そう思うことは悪いことではないはず。
だって、現に今まで周りの人たちも、そんな私を喜んでいてくれたもの。


中学に上がる前から色々と努力し始めて、成績がぐんと伸びたときは両親が喜んだ。

高校で始めた部活の地区大会でいいセンまで行ったときは、他校の選手からも声をかけられたし、大学で化粧を覚え始め、体型にも気をつけていたら、彼氏が私を自慢げにしてた。

称賛されたものは、そのまま受け止めてきた。
だって、そうされる程、自分でも頑張ってるつもりだし、謙遜することなんてないって思ってる。


過去の自分を思い返して、現在(いま)の自分は間違ってないと確認する。

きゅ、と肩に掛けたカバンの取っ手を握り、ヒールを小気味のよく鳴らして歩き始めた。


数回そのパンプスの音を耳にしたときに、カバンの中から規則的な呼出音が聞こえて足を止めた。



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