カラフルデイズ―彼の指先に触れられて―
「えっ! 美雪?」
「『阿部』です。本庄さん、ずっとここにいらしたんですか?」
「え? ああ。寝ちゃってたみたい」
頭を軽く掻きながら答える要は、どうやら居留守とかじゃなく、本当に寝ていたようだ。
「ふーっ」と、息を吐いて、要に用件を伝えようと口を開きかけたときだった。
「ここ、暑いでしょ。入って」
自然にそういう要は、身を半歩引いて、部屋への道を私に明け渡す。
ちらりと玄関を見ると、不要な靴は置いてなく、とても綺麗。
「いえ。生存確認を頼まれただけですから」
「ははっ。なに? それ」
「ああ。それだけじゃなかった。うちの神宮司に宛てたメールが届いていないみたいですので、再送をお願いできますか?」
「神宮司さん? あ、もしかして、ちゃんと送信してなかったんだ。そっか……」
少し俯いて納得するように独り言をいう彼を見て、頼まれたことは済んだ、と引き返そうとした。
すると、私の手首を要がパッと掴む。
内心驚いてるけど、そこは顔に出さないように、掴まれた手から要の顔へと視線を上げた。
「なに?」
「ちゃんと仕事、最後までしていかなくていいの?」
「はぁ? だから私は――」
「メール。ちゃんと送信済みになったとこまで確認してってよ」
「そんな子供みたいなことっ……」
ばかばかしいっ。本当はもう会いたくなんてなかったのよ!
その思いで掴まれた手を振り払おうとする。
けど、一度軽く振り上げた手は、解放されるどころか、より強く握られた気がする。
「じゃ、オフィスでも『美雪』って話し掛けてもいい?」
「――じょ、冗談でしょ!」