カラフルデイズ―彼の指先に触れられて―
「相変わらず、素っ気ないね」
「……それはすみません。コレが普通なもので」
「ふーん。そうなんだ。じゃあオレだけにそういう感じなわけじゃないんだね。なら良かった! でも美雪、営業なのに――」
「なによ。あなたこそ、親しいビジネス関係もなくて、一人で仕事してるって噂を聞いたけど。それってそういうデリカシーないことばっかり言ってるからじゃないの?」
売り言葉に買い言葉。でもおそらく要は“売ってる”なんて自覚ない。
それなのに、ついまた余計なことまで言ってしまった少し前の自分に後悔する。
私の反論に口を閉ざした要を直視出来なくて、まるで夕陽が絨毯のように覆っているフローリングに視線を落とした。
壁がコンクリのせいなのか、外の音も聞こえなくて、すごく静か。
足元の光が、だんだんと赤みを増していくのを、気まずい気持ちのまま瞳に映す。
要の影が視界の隅にあるのに気付くと、動かない影に良心が痛む。
その影を恐る恐る追っていき、彼の喉元まで顔を上げたときに、その喉仏が動いた。
「上辺だけのビジネスは性に合わないんだ」
――――今まで見てきた表情と違う。
急に大人の顔になった要から目が離せない。
少年のように笑顔を見せると思えば、鈍い光を瞳に灯して私を映し出す目力に、吸い込まれてしまう。
「オレが描き(やり)たい仕事じゃなきゃ、いいものは生まれないし、オレ自身が納得いかないしね」
凛としたその顔に、ああ、プロ意識がすごく強い人だ、と思った。
歳が若いからとか、普段の性格がゆるいとか。そういうの関係なくて。
恵まれた環境にいるであろうこの人が、そこにいるのは当然のよう。仕事を愛して、愛されてるんだな――なんて柄にもないことを思う。