カラフルデイズ―彼の指先に触れられて―


「ありがとうございました。いらっしゃいませ」


私がギィっと渋い音の鳴る扉を開けると、声がした。
扉の間で一人の男性とすれ違うと、ニコリと笑う店員さんと目が合った。

帰り道にある、街から少し外れた静かな路地。
そこに佇む小さな喫茶店に寄るのが、私の息抜きであり、日課のようにもなっている。

こじんまりとした店内には、木のぬくもりが温かいカウンター席。
その5席しかないカウンターの一番端に、私はいつも腰を下ろす。


「コーヒーください」
「はい。いつもありがとうございます」


オレンジ系の柔らかい光に照らされるテーブルに、カバンから出した手帳を置く。

まるでスポットライトのように私の手元を照らす照明は、カウンター席の上に3つほど設置されている。
何気なく、その照らしている箇所を順に追ってみてみる。

隣のスポットライトが焦点をあてていたところに、飲み終わったカップと何かを食した後のお皿。
そして、一本のペンが置かれたままだった。

そのペンはツイスト部分がシルバー色で、木軸は少し赤茶色をしている。
カウンターの上のペンは、まるで展示品のように、オレンジの光を眩しい程に反射させてその存在感を表していた。


「お待たせいたしました」
「あの、あれ。忘れ物じゃないですか?」


いつものコーヒーをにこやかに運んできた店員さんに、私は指をさして言った。
その指の先をたどって見た店員さんは、トレーをカウンターに置くと、ペンを拾い上げた。

あ。座ったまま見たときは気付かなかったけど、あれ、ドイツ製のボールペンだ。
それなりの値段もするボールペンを忘れるなんて、今頃慌ててたりしないかしら。

ペンをじっとみたまま考えていると、店員さんが「教えて下さってありがとうございます」とお辞儀をして、ペンを持って行ってしまった。

私は湯気が立ち上るコーヒーカップを手にして口元に近付けた。


「……いい香り」


仕事後のコーヒーが心安らぐひととき。
カップに口づけるその前に、ひとこと漏らしてほほ笑んだ。
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