カラフルデイズ―彼の指先に触れられて―
資料をパサリと置いて、デスクに頬をつけ、90度に変わる部屋を眺める。
目の前の廃番一覧を瞳に映しながら、ふと思う。
――この商品たちと、私って同じなのかも。
私もそろそろ、古くなって必要とされない時期がすぐなのかもしれない。
なんだか今、私、落ちる時期? バイオリズム的にそんな感じ?
けど、上がった記憶もないのに、これから下がるってどういう仕打ちよ。
そんな誰に対しての文句かもわからないことを心の中でぼやいていると、静かになった部署に『ガチャ』っとドアの開く音が響いた。
誰。森尾さん? メイクでも直して戻ってきたかしら?
でもあの泣き方じゃあ、そこまでメイク崩れしてないと思うけど。
デスクに突っ伏したままの私はドアに後頭部を向けていたので、その主が誰なのかわからない。
コツッと一歩踏み入れた革靴の音で、それが男の人だとわかると同時に、他の女子社員に話しかける声で、それが森尾さんじゃないということが確定する。
「あの子の荷物って、どれかな」
「えっ。あ、そこのデスクのピンクのカバンです……!」
「ありがとう。もうとっくに定時過ぎてるし、今日は帰るみたいだけど、問題ない? 阿部」
私の顔が向く方向には、帰り支度を済ませ、今まさに帰ろうとしていたさっきの社員。
彼女が少し顔を赤らめて質問に答えた目に映る。
それを眺めていたら、自分の名前を呼ばれて体を起こした。
「問題ないです」
ええ。そりゃあもう。全く。
大体こんな状態で、あの子がまともな仕事が出来るなんて到底思えないし。
つらっと一言だけ、そう答えた。
でも、さっきのことで、多少なりとも私だって気まずいわけで。
だから神宮司さんの顔を見ることをせずに、彼があの可愛らしいピンクのカバンを持つ手にだけ視線を向けると、ふいっとパソコンに向き合った。
すると、「ふー」と気の抜けるような息をひとつ吐き、神宮司さんが言う。
「俺の用事はまた改めて。じゃあおつかれさん」
パタンと閉まると、誰にも聞こえなくらいの溜め息を吐いた。
その後も私のパソコンの画面には、考えなければならない案件がひとつもあげられていないまま。
固い頭がさらに固くなっている今の自分には、到底柔軟な発想なんて出来やしなかった。