カラフルデイズ―彼の指先に触れられて―


グレーのパンツに白のブラウスを纏った私は、炎天下の中を歩いていた。

出社した後、お客さんのところを廻って歩くのが私たち営業の主な仕事。
いつでも何にでも対応出来るように、自社のカタログと資料を入れたカバン。
それを肩から下げ、一日に何十件と歩いて廻る。


「お世話になってます」
「あ、お疲れ様です。阿部さん」


一軒の大きな文具屋の2階に足を踏み入れると、ショーケースに囲まれながら、その店員の女性は笑顔で私を見た。


「ほんと。暑くてそれだけで疲れちゃうわ、この季節」
「阿部さんは、一日中外にいるようなお仕事ですもんね」
「こんな暑い日は、店内にいられるあなた方が羨ましいわ」


ポケットから出したハンカチで口元を押さえて言う。

嫌味ではないけど、そうとも取られ兼ねない私の言葉に、その人は嫌な顔ひとつしないで「そうですよね」と答える。

――ああ。またやってしまった。

どうも、癖というのはなかなか治らないらしい。
私は、言葉や言い方に棘がある。それは今に始まったことじゃないし、だから自覚してもいる。

けど、この歳になって、“直そう”と決めたところで、すぐに改善されるわけじゃない。

こんなとき、それを痛感させられる。


「だけど、なんかちょっと、“営業”ってかっこいいです、特に女性なら」
「神野(かんの)さんは、その仕事が一番合ってると思うわ」


この店のスタッフ、『神野さん』は、私の4つ下の27。

歳が私の方が上だからか、神野さんは私にとってお客様の立場にいるはずだけれど、今みたいに敬語で話す。
逆に私は歳下だからか、くだけた話し方をしてしまうのだけれど。



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