カラフルデイズ―彼の指先に触れられて―
逸らした顔はそのままに、ちらっと横目で要を見る。
すると、いつの間にか椅子に座り、真っさらな紙を置いた大きめの画板を自分の足に立て掛けていた。
右手に持つペンをくるくると規則的に回す。
真剣な横顔もまた、絵になる彼は、その容姿も含めて人気なのだろうとわかる。
ぱちっと目が合うと、急に優しい瞳になった。
「そこ。座わってて?」
視線でさされた場所には、もうひとつの椅子。
そこからは要の横顔がすぐ近くに見える。
私はなにも言わずに、その椅子をひき、カバンを下にそっと置いて腰をおろした。
前に来たときに、ちょうどこの椅子があるデスクのうえに、紙が広がってて。
でも、今日はすっきりと整頓されている。
目の前になにもない。
そんなことが、思えばずっとないことに気づく。
ただ今日までがむしゃらに走り続けてた。
朝起きたらパソコンでメールや文書チェック。出社したら、それに加えて資料が積まれてて。営業にまわるときには、はちきれんばかりにそれらを詰め込んで……。
だから、手を伸ばす範囲にそういうものがないという状況が、どこか心を休ませた。
少しだけ穏やかな心になった私は、改めて目の前にいる要を見つめる。
「……ねぇ。一体、私はここになにをしにきたの?」
しばらく様子を窺っていたけど、あれから全く私と言う存在がないものかのように作業を進めている要に言った。
すると要は持っていたペンを止め、くるりと椅子ごと私に体を向けた。
「そこにいて」