カラフルデイズ―彼の指先に触れられて―
「阿部さんには、神宮寺さんがお似合いだと思いますけど」
「……『匠さん』、じゃなかった?」
「あれはワザとですよ。阿部さんに気に掛けさせるための」
「みたいね」
改めて、向こうが胸の内を曝け出して火蓋が切られ、淡々と言葉を投げ合う。
自分自身、あまり口で負かされたことなんかないし、意外にも森尾さんもポンポンと返してくるから、このラリーがしばらく続きそうだ。
「あたし、本気で狙ってますから。もう彼とコソコソ逢い引きみたいなこと、しないでもらえます?」
「本気」、ね……。
別に私は要(あいつ)とどうこうなりたいだなんて考えたことないし。
どっちかというと、グイグイ来られて戸惑ってる状態だし。
なら、すんなりと彼女の要求を飲んで、ただOKすればいいだけなのに。
それがこの面倒なやっかみから早く逃れられる方法とわかっているのに、私の性格はまったく素直じゃないわ。
こんなふうに言われた相手が、例えば神野さんなら、もう少し素直に聞き入れたでしょうね。
だけど、目の前に立ち、反抗心丸出しの顔で私に歯向かって来てるのが森尾さんていうだけで、ひねくれた私の口は勝手に開く。
「あなたの言う『本気』ほど、信じられないものはないわ。先方の都合で会うことが『逢い引き』と言うなら、しない約束なんか出来やしないわ」
下唇が見えなくなるほど噛む森尾さんを眺めていると、足音が近づいてくるのに気がついて、休戦モードに切り替えた。
「……この間の修理品、デスクに置いといたから、きちんと確認してから持っていって」
いつものように森尾さんに業務連絡をし、背を向けて目の前のドアを開けた。
「あ、お疲れ様でーす」
「お疲れ様です」
すれ違いで資料室にきた他の社員と挨拶を普通に交わしながら、森尾さんをそのまま置いてその場を去った。