カラフルデイズ―彼の指先に触れられて―
カーマイン
*
四角いローズグレイ色の看板。そこの中央に主張しすぎず、でも、なぜか存在感を感じさせる『IRIS』という店名。
一度その前で止めた足を、左足からまた前に踏み出した。
少し重めの扉を押しあける。重く感じるのは、もしかしたら自分の重苦しい気分のせいなのかもしれない。
「いらっしゃいませ」
少し暗めの店内からは、その雰囲気に合った落ち着いた店員の声がする。
そして、私を呼び出した張本人は、それを合図にすぐこちらの存在に気付いた。
「美雪」
不思議。要が少し微笑んで、たった3文字の言葉を発音するだけなのに、その口の動きに魅入られてしまうんだから。
「……今日は、“一方的なお誘い”をありがとう」
嫌味混じりの挨拶をしながら、要の座るカウンター席にカバンを置いた。
「っはは! ごめん。でも――」
頬づえをついた手で、筋の通った鼻の辺りを覆い、目を細めて笑う。
そして短い笑い声のあと、その陶器のように綺麗な指の隙間から、凛々しい瞳を覗かせて言う。
「来てくれた」
彼の視線や、手や、言葉の一字一句に、やっぱり私はわずかに心を翻弄されてる。
小さく脈打つ、いつもとは違う動悸に気付いてる私は、それ以上鼓動が速まらないよう、静かにカウンターチェアに腰を掛けた。
「あんな誘われ方、今までなかったわ」
「じゃあ、オレが美雪の“初めて”だ?」
「――バカじゃない」
臆面もなく、ストレートに距離を縮める要から、ぷいと顔を逸らす。
四角いローズグレイ色の看板。そこの中央に主張しすぎず、でも、なぜか存在感を感じさせる『IRIS』という店名。
一度その前で止めた足を、左足からまた前に踏み出した。
少し重めの扉を押しあける。重く感じるのは、もしかしたら自分の重苦しい気分のせいなのかもしれない。
「いらっしゃいませ」
少し暗めの店内からは、その雰囲気に合った落ち着いた店員の声がする。
そして、私を呼び出した張本人は、それを合図にすぐこちらの存在に気付いた。
「美雪」
不思議。要が少し微笑んで、たった3文字の言葉を発音するだけなのに、その口の動きに魅入られてしまうんだから。
「……今日は、“一方的なお誘い”をありがとう」
嫌味混じりの挨拶をしながら、要の座るカウンター席にカバンを置いた。
「っはは! ごめん。でも――」
頬づえをついた手で、筋の通った鼻の辺りを覆い、目を細めて笑う。
そして短い笑い声のあと、その陶器のように綺麗な指の隙間から、凛々しい瞳を覗かせて言う。
「来てくれた」
彼の視線や、手や、言葉の一字一句に、やっぱり私はわずかに心を翻弄されてる。
小さく脈打つ、いつもとは違う動悸に気付いてる私は、それ以上鼓動が速まらないよう、静かにカウンターチェアに腰を掛けた。
「あんな誘われ方、今までなかったわ」
「じゃあ、オレが美雪の“初めて”だ?」
「――バカじゃない」
臆面もなく、ストレートに距離を縮める要から、ぷいと顔を逸らす。