カラフルデイズ―彼の指先に触れられて―
「似てる……」
なにに、って、あのよく私が立ち寄る喫茶店に。
置いてあるものとか、デザインとか、間取りとか。そういうんじゃなくて。
きっと、ライトの具合と窓からの景色とか……店内の空気みたいなものが。
私の呟きに、くすくすと要がまた笑った。
「やっぱり」
「『やっぱり』って、なによ?」
「『似てる』って、あそこでしょ? オレもオープン前に覗きに来たときから思った」
「オープン前?」
勿体ぶるような話じゃないのに、今度は子供のようにズルイ顔をすると、さっきのバーテンダ―に視線を移した。
その視線に続いて、私も顔を正面に向ける。
すると、私と要を交互に見た、その男性が口を開いた。
「わたしが、以前から……“KANAME”のファンでして……依頼をしたんです」
「『依頼』?」
どんな依頼だったのかしら? でも、『要に仕事を依頼した』って、この場で言うってことは、それを受けたってことよね。だとしたら、この人、相当運がいいわ。
だって、要は仕事を選り好みするんだから。
「じゃあ問題。どれがオレの仕事だったか、わかる?」
「問題」? どれが要のデザインしたものか、って?
そう言われて、近くのものに視線を移して回る。
このグラスとか? あそこに並んでるお皿とか?
この店の中の要のデザインてどれだろう?
そういえば、私、まともに要の仕事(作品)って知らないかもしれない。
一通り辺りのものを見て、要と視線を合わせる。
ピンとくるものがない私の困った顔を見て、要は本当に面白そうに笑いを堪えて言った。
「そんなに困った顔を見るの、初めてかも」
「う、うるさいわね。女性が困ってるのを見て楽しむなんて、相当悪趣味よ」
「違う違う」
「なにが『違う』のよ」
「別に、“女性”ってわけじゃなくて。“美雪”だけだけど」
またそんなことを言って、人のことをからかって困らせて、楽しもうとしてるんじゃないの?!
そんな私の疑った眼差しを受けた要は、「はぁ」と溜め息をついた。