カラフルデイズ―彼の指先に触れられて―
「バーボンください。飲みやすそうなのを、ロックで」
要に「マスター」と呼ばれていた人が、目を丸くして要に目配せをする。
それを受けた要は下から覗くように私を見て、静かに笑った。
「いいんじゃない。でも、限界になる前にはオレが止めるよ?」
……歳下のクセに。生意気。
だけど、一緒にいて歳下に思えない男。
私が黙ったまま、要を見つめているうちに、いつの間にか1杯目のグラスがなくなり、希望のものが置かれていた。
曇りのない円柱のグラスに注がれた琥珀色の液体。
その水面から覗く氷の山が、天井の照明に反射して、キラキラとゆっくり動いた。
お酒に逃げたって、なんにも解決しないってわかってる。
けど、私だって逃げたくなるときがある。その逃げ場が選ぶほどないから――。
仕事も私生活も。神宮司さんも森尾彩名も、未来も過去も。
現実全てを忘れる時間を、ほんの少しでいいから欲しくなって。
その欲求を、出されたグラスを傾けることで満たそうとする。
クセのある焦げたような苦みと、わずかに甘い香りが口に広がる。通り過ぎていく喉が熱く感じて、結局は『美味しい』なんて思うようなものではない。
でも、それを知っててこれを頼んだ。
「……飲みたいときってあるのわかるけど、もうちょっとピッチ緩めたら」
「……もう一杯お願いするわ」
急にしん、となった空気に、私は目でお酒を要求した。
久しぶりにきつめのお酒を飲んだ私は、本当のところ、もうすでに酔いが回り始めてる。
でも、若いときから『顔に出ないね』とよく言われていたから、酔ってない素振りで2杯目のグラスに口をつけた。