カラフルデイズ―彼の指先に触れられて―

「梨木」「幹事」「同窓会」。

声はもう、誰ひとりのも覚えてなんかいなくて。ああでも、男子は声変わりするからピンと来なくて当たり前かもしれない。
でも、そのキーワードたちは全て、思い当たるものがある。


「……美雪?」


私の顔色が変わったことに気がついた要が、少し心配そうに顔を覗きこむ。
それを無視して急いで席を立って店を出ようとしたら、やはりお酒がまわっていて、ついよろけてカバンを落としてしまった。

ドサッと落ちたカバンから飛び出した資料やペン。
慌ててそれらを拾い上げようと屈むと、視線の先に黒い革靴が目に入る。その足元には自分の名刺入れと散らばった名刺。


――やめて!


そう思ってももう遅くて、その革靴の主が手を伸ばし、私の名刺を拾い上げる。


「営業――――阿部、美雪……?」


名前を読み上げられても、顔を上げることが出来ずに俯いたまま。
だけど、このままでいられるわけもないと奥歯を噛んだ私は、残りの名刺を拾ってスッと立ち上がった。
そして、数人に注がれる視線に目を合わせずに、名刺を回収するべく手を出した。


「え……あ、阿部美雪って……その、もしかしてN小の?」


半ば取り上げるようにして名刺を梨木から受け取ると、彼は呆然とした顔をして私を見ていた。


「あ、いや、偶然かな! おれらの知ってる阿部とはちが――」
「美雪ちゃん?」




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