カラフルデイズ―彼の指先に触れられて―
梨木が“人違い”で終わらせようとしたのに、後ろにいた女性が私たちの間に割って入る。
その女性は昔の面影があって――すぐに優子ちゃんだということに気がついた。
「いやいや! 酒井! 全然違くねぇ?! こんな美人じゃなかったぞ、おれの記憶では。これじゃあ整形……」
「……うるさいわね。おかげさまで整形なんかしなくても、生まれつきの顔よ」
「えぇっ! しかもキャラも違うっ! うそだ! 大体営業向きの性格なんかじゃなかったのに!」
優子ちゃんの肩に手を置き、昔と変わらない“気の利かない”梨木は、思ったことをそのまま口にする。
失礼なことを口走ってるのに気付いてないのは当の本人だけ。あとのメンバーは気まずい顔をして、誰もが閉口した。
「噂では聞いたことがあったけど……本当だったんだ。『美雪ちゃんが変わった』って」
……誰がどこでそんな噂をしていたんだか。
親の転勤でちょうど卒業と同時に引っ越しをしてからは、小学校のときの人になんか絶対に会わないようにしてたのに。
優子ちゃんは、学級委員とかをすすんでやるような、とても気さくで優しい子。
ひとりクラスで浮いてる私にも、時折気に掛けてくれていた。
そんなことを思い出したくもないのに思い出していると、また無神経な梨木が私の顔をじろじろと見て言う。
「いやぁ、こりゃ噂にもなんだろ! 小学校のときからこんなに痩せてて美人ならモテてたのにな。誰も阿部がこんなになるなんて想像してないって!」
「ちょ、梨木くん!」
きっと梨木は褒めてると思ってるんでしょうけど、あんた、昔から変わってないのよ。
体つきや声は大人になっても、そこんところはあまり改善されてないのね。
そして、当然それに気付いてる優子ちゃんも、慌ててどうにかしようとしている辺りが変わってなさそう。
そんな分析を心とは裏腹に頭で冷静にし終えたと同時に、横からの要の視線に気が付きハッとする。
そして一刻も早くこの場を出ようとカバンを拾い上げて、同級生たちに背を向け、一歩踏み出した。
「でも、顔がよくてもまだ結婚してねーんだな。ちょっときつい感じだからかなぁ? もったいないぞ? お局様にでもならないようになっ」