カラフルデイズ―彼の指先に触れられて―
そう。梨木って本当に人の心がわからないバカ男子。
悪気なく、いいアドバイスとでも思って言ってるから心底タチが悪いと思う。
グッとカバンを握りしめ、唇を噛む。
――タイミングが悪すぎる。
今、そんなストレートに耳を塞ぎたくなるようなことを笑いながら言われたら、いくら私でも――。
『消えてしまいたい』。
そう思って、酔った頭で考えることをもう放棄したくなった。
誰にも特別必要とされず、そして頑張ってきたことを否定されるように笑われて。
「結婚で女性の価値を決めるような言葉は、イマイチ共感出来ないね」
あと少しで扉に手が届くのに、動けなくなってしまった私の肩を抱くようにして、助け船を出したのは――要。
驚いて、横に並んだ要を見上げると、彼は嘘も方便と言わんばかりに流暢に話を続けた。
「美雪は結婚出来ないんじゃなくて、まだしないだけ。ああ、あなたからも勧めてもらえませんか? 彼女はなかなか首を縦に振ってくれない」
梨木に話を振ったタイミングで、つい反応が気になって、少し振り向いてしまった。
梨木は即座に答えられないようでモゴモゴと動揺し、優子ちゃんを含め、後ろにいる女子の目は、要に魅入っている様子だ。
「じゃ、オレたちはこれで。ごゆっくり」
最後に柔らかな笑顔と声で言うと、私の背中に手を添えてエスコートし、店を出た。