カラフルデイズ―彼の指先に触れられて―
ミッドナイトブルー


涼しかった店内と比べ、外は少し蒸した空気が漂う。

生温い風じゃ、到底冷めないほど酔ってる私は歩くこともままならない。
動かないのは足だけではなくて、思考も、だ。


こんなときに、運悪く同級生と鉢合わせして、よりによって要のいる前で過去を曝されて。
それでなくても、要の前ではいつも以上に気丈に振舞っていた方なのに。

蓋を開けば、そんな冴えない過去の人間でした、なんて……カッコ悪いことこの上ないわ。


「……あの男の言ってたことは本当よ? 過去(むかし)の私は、今から想像できないくらい太ってて背も低くて、成績も中の中。その容姿となにひとつ取り柄もない中身で、引っ込み思案にもなって……友達って呼べるほど親しい友達なんか、いなかったわ」


回らない頭で紡ぎ出す言葉は、どれも言わなくてもいいことばかり。


「『助けて』なんて……言ってないわよ……」


挙句、この期に及んで素直じゃない私。


「“綺麗なもの”を好むあなたからしたら、こんな事実、滑稽で失望したでしょう」


酔ったって、全然気分はよくならなくて。
気怠さと、自分の言ったことへの後悔と後ろめたさ。梨木たちへの、わけもない惨めな想い。


私の自信はどこへ行っちゃったの?


ああ、そうだ。なにかひとつでも活かせるアイデアをそろそろ出さないと……。
神宮司さんのことも、だらだら引っ張らないで考えなきゃ。若い森尾さんに対して微妙な気持ちになるのも忘れたいし、彼女との確執も出来れば短時間で済ませてしまいたい。

仕事や森尾さんや神宮寺さんまで頭に入り込んできて、もうぐちゃぐちゃ。


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