カラフルデイズ―彼の指先に触れられて―
ぼんやりとした視界の中で、香りだけが鮮明に記憶に残りそう。
ふわりと体が軽くなり、穏やかで、寄り掛かりたくなるその香りに目を瞑ったまま酔いしれた。
抱きかかえられていた私が目を開いたら、いつの間にか路上ではなくて、どこかでみたことのある、コンクリの壁。
要の腕の中でちらりと辺りを見たけど、酔った状態でまともに考えることなんてできるわけがない。
そっと降ろされた感触は、ふわりと心地よく沈むベッド。
すぐあとに、ロールスクリーンを引いていない窓からの月明かりを背負って、要がギシッと膝をつく。
両手を顔の横につき、覆いかぶさられてから見つめられる。要の真剣だった顔が、ふっと優しくなって、そっと髪をひと束掬った。
「染まってない、真っ直ぐ(ストレート)な黒髪が、美雪らしい」
例えれば、森尾さんのように、長く柔らかなふんわりとした髪は似合わないと自分でも思うから。
だから、ずっとそのまま、黒い髪のストレート。
ただ、30になってから唯一変えたというなら、ロングをボブにした程度。
「髪型(ヘアスタイル)も、凛としてて――今の美雪に合ってる」
ひとつまみした私の髪をぱらっと落とすと、耳元にキスを落とされた。
「んっ」
久しくなかった感触に、自然と声が漏れてしまう。
要がまるで私の意の『最終確認』をするような目を向ける。
ツッと人指し指の甲で顎から頬にかけてなぞられ、次に親指が唇の輪郭に沿って動く。
自分でも気付かぬ間に、右耳に触れてた要のもう一方の手首に手を添えていた。
それが私の正直な気持ち――その視線の答え。