カラフルデイズ―彼の指先に触れられて―


「ん……」


あー……頭、重い……。
多少のお酒はこの間大丈夫だったけど、やっぱりもう若くないみたい。深酒するものじゃないわね。
……今、何時? 出勤前にお風呂に入る時間、あるかしら。


ごそごそといつもの位置にある携帯を手探りで探す。
枕元にあるはずの携帯がいくら探っても見当たらなくて、代わりになにかさらっとした感触を手に感じる。


くすぐったい。なんだろう、これ。


だるい体で寝がえりをうち、重い瞼をゆっくりこじ開けると、自分の部屋の景色ではない気がして首を傾げた。

やっと光になれてきた目が、ようやく目の前のモノの色と輪郭を認識しはじめたのと同時に、記憶も蘇り始める。


今日は土曜日。そして週終りの昨日は……昨日、は――――。


フラッシュバックするように、会社の資料室や、弐國堂……ローズグレイの看板と、同窓会案内のハガキ。傾き、ぼやけた夜の景色と、月明かりが頭に浮かぶ。

視界と記憶がはっきりとして、息を飲んだ。


――――私……要と……!!


飛び起きたい衝動を堪えて、数十センチほどしか離れずに寝息を立てている要を凝視する。

乱れたシーツと、掛け布団から出ている要の腕。それと、その布団が、自分の肌に直接触れているという感覚で、その記憶が夢ではないことがわかった。


……しちゃったんだった。


要を起こさないように、体勢をそのままに寝顔を見つめる。


嫌味なくらい、白くて綺麗な肌と、長い睫毛ね。
なにもしなくても色づきのいい唇とか、口紅が必要な私にあてつけみたいなものよ。


昨日月明かりがのぞいていた窓からは、代わりに強く眩しい光が射し込む。

昔、飼っていた猫を思い出すような柔らかい薄茶の髪。
その髪を撫でたくて、そっと伸ばし、触れる直前で手を止めた。


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