カラフルデイズ―彼の指先に触れられて―
背後から掛けられた声に、肩を上げて驚いた。
いやっていうほど聞き覚えのある声に、私はなかなか降り向けずにいると、カツッと一歩その足音が近づいてくる。
「まさかとは思いますけど、付き合ってるんですか? KANAMEと」
覚悟を決めて振り向くと、そこには白いリボンワンピースを纏い、“気合いの入った”森尾さんが厳しい目つきで私を見ていた。
「……まさか」
「……ですよねぇ? いろんな情報、仕入れましたけど、“歳上”っていう話はひとつもなかったですもん」
「……そう。自分のこととなると、マメに情報収集出来るのね」
本当は、声を掛けられたときの動悸がまだ鳴りやまない。
それをごまかすように、なるべくいつものように、冷静に言葉を重ねる。
「で、休日に営業までするわけね」
「『先方の都合で会うこと』があるような言い方、してましたよねぇ?」
「それがなにか?」
「それじゃあ、今も、そういう理由ですかぁ? 昨日と同じ服で?」
森尾さんの鋭い指摘に、顔が熱くなる。
彼女は、こういう類の嗅覚が優れているだろう。
これ以上なにか言っても、どうせ勘付かれているし、首を絞めるだけだわ。
しばらく視線を交錯させて、私は否定せずにその場を立ち去った。
「阿部さん」
森尾さんの呼びかけに、一度も足を止めずに歩き続ける。
すると、遠ざかっていく私の背に、森尾さんはやけに明るい声で言った。
「神宮司先輩には言わないほうがいいですかぁ?」
――もう、最悪だわ。
心の中で、この不運な出会いに憤りを感じ、カバンを強く握りしめる。
土曜日で、どこも人が多いなかを、ただひたすら自宅へと向かって歩いていた。