私と貴方とあの子と・・・【完】
私はニコッと笑いながら「いいえ」と返す。
暫く当てていると男の子は『あとは自分で押さえるよ』と言って、
私の持つ、タオルで包んだ袋に自分の手を支えた。
私はそっと手を放して少し離れたところにある椅子に座った。
「私、ここに居るから、何かあったら呼んでね。
よく分からないけど、少し眠った方が良いかも」
医療はよく分からないけど、昔から『寝れば治る』ってセリフを親に言われて育ったから、
寝れば良くなるんじゃないかと思った。
そっと、近くにあったバッグから本を出す。
それは私が持ってきた本で、これから必要になる本・・・『受験対策』と書かれたものだ。
試合中のフロアから少し離れた場所にあるこの救護室。
静かな室内と、ページをめくる音。
窓から差し込む光。
どれくらい時間がたっただろうか・・・
室内には初めましての男の子が居るのに、
こんなに居心地良い空間なのは何故だろうか。
その空間は、大きな声とドアを開ける音に壊される。
「郁斗ぉ~大丈夫?ぶつかって倒れたって聞いたから、
私急いで探しに来たの!」
それは、メイクをばっちりした女子高校生で、
ドタドタと男の子に駆け寄る。