低空飛行
第一章
ある夏の晴れた午後、いつも通り私は病室のベッドの上から窓越しの空を眺めた。
今日は、怖いほどの晴天に恵まれていてギラギラと太陽が私の肌を照りつける。
私は汗をかきながらも、上着を羽織ってそばに置いてある古ぼけたノートを手に取った。
「…本当は、君のことが好き。」
付箋の貼ってあるページを開いて、汚れて消えかかっている歌詞を朗読する。
この部分は、自分の想いを伝えられなかった少女が初めて相手に想いを伝える大切なシーンだ。
けれど、どうしても感情の込め方が分からない。
私自身、恋というものをしたことがないからだろうか、
恋焦がれるという感情も、
片思いをするという想いも、
人を好きになるという感情すら、
私には生まれつき与えられなかったようなものだ。
…私は、みんなと同じように歩けない。
生まれつきで、私は17年間生きてきて自分の足で立ったことがないんだ。
学校にも行ったことがない、幼稚園も、保育園も…。
だから、友達もいない。
好きな人もいない。
私は、なにもない人間。
存在価値も、生きている意味さえ…。