ボクの中のキミへ
「柚の‥友達?」


「は‥はい」


柚のお母さんは怪しんでいる。


当然だ。


今まで一度も見舞いに来た事がない人間が、急に来たんだから無理もない。


「柚の事、今も覚えてくれてたのね‥ありがとう。是非会ってやって下さい」


そんな俺に、柚のお母さんは優しくそう言ってくれた。


(お母さん‥少し老けたみたい‥)


僕の中の柚は、寂しそうに言った。
答えてあげたかったけれど、今は柚と会話するわけにはいかない。


カーテンを開けると、そこには柚が寝ていた。


あの夏祭りで見た柚が。


柚は少し大人になり、まるで揺らせば起きるんじゃないかと思うような顔で、静かに呼吸を繰り返す。


「柚‥」


俺の中の柚は元気なのに‥

目の前には柚が眠っている。


「きっとお友達が来てくれて喜んでるわ‥。柚‥よかったわね」


柚のお母さんは力無い笑顔で柚に話しかけた。


(海君‥私に会ってくれてありがとう‥)


小さな声で柚が言う。

柚は自分の姿を見てどう思っただろう。


「柚‥早く目を覚ませよ!お願いだから‥!」


俺は泣いた。


こんなに近くにいるのに‥

こんなに毎日話しているのに‥


俺は柚に何もしてやれない。
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