恋する季節 *- confession of love -*
「あの……」
名前が分からないだけに、何と呼ぶべきか分からず。
とりあえずそれだけ声をかけると、男子は美琴を見て苦笑いのようなものを浮かべた気がした。
暗いからどんな顔で笑っていたのかは美琴には分からなかったが、口元は笑っているように思えた。
「ごめん……俺、実はこういうの苦手で……」
「でも、何度も入ってるから中分かるって言ってたよね?」
入る前、確かにそう言われて誘われたのを覚えていた美琴が聞くと、男子が慌てたように言う。
「何度も入ってはいるんだけど、その……やっぱり苦手で……」
美琴には言っている意味がよく分からなかった。
苦手なら入らなければいいだけの話だ。今回だって、苦手だと言って外で待っていればよかったのに。
色々疑問は浮かんだけれど、立ちすくんでしまっている男子をそのままおいて、じゃあ落ち着いたらゆっくり来てください私は先に行きますから、なんて事は言えない。
彩乃なら平気で置いていきそうだが、そこは、お人よしの美琴。
いくら男嫌いといっても、怖がっている男子をそのままにしておく事はできなかった。
仕方なく男子のいる場所まで戻り、行こうと声を掛ける。