恋する季節 *- confession of love -*
沈黙の密室に、お互い自分の騒がしい鼓動を感じるのに精一杯で会話を見つける事さえできない。
大和は緊張を悟られないようにと、美琴の指に絡まった糸を解く事だけに意識を集中させようと必死で、美琴も自分の胸の音を抑えるのに必死で。
異様な緊張感に包まれる中、大和が三本の糸をやっと美琴の手から解くと、お互いから深いため息が落ちた。
「ほら。もう一度やってみろよ」
「うん……」
それだけ会話を交わしたものの、場が持たない。
常々ふたりきりになりたいと思っていた大和だったが……ふたりきりになってどんな話をしたかったのか、美琴の指先の糸なみにこんがらがった今の思考回路では何も思い出せなかった。
いきなりこんな密室はレベルが高すぎる。
もっと熟考を重ねて様々なパターンをシミュレーションしとくべきだった……と後悔するが、もう遅い。
ゴンドラから溢れ出すほどの緊張を感じながらも大和が隣に視線を移すと、美琴はまだ糸相手に手こずっているようで。
そんな様子を見ながら、「俺もやってみるかな」となるべく普通の声のトーンを意識しながら大和が言う。
そして、美琴とは逆端の糸を掴むと、右手の小指に結び付ける。
片手だからやりにくくはあったが、三本の糸をものの一分で結ぶ事ができた。