絶滅危惧種『ヒト』
井上の携帯電話が鳴る。見ると同僚の林からだった。


「もしもし」


『オマエ今どこだ?』


「東城医大病院です」



『そうか。そっちはそれからどうだ?』


「今のところ外来の医師だけですね」



『そうか……。今のところ報告が入っているのは全部で10件だが、おそらくまだ増えるだろうな』


「そうですか。とりあえず私も一旦そっちに戻ります」


『分かった』


井上は電話を切った。


「とりあえず帰るわ。何かあったら、またすぐ電話してくれ」


「分かった」


「じゃあな」


井上は軽く手を上げると、部屋から出て行く。

直樹はその後姿を見送りながら、深くため息を吐いた。


――何かがおかしい。


そのときふとそう思った。

ソレが何なのかまったく思いつかないのだけど、何かが心の隅に引っかかる。


――支障を来たし始めた地球が、人類の数を減らそうとして手を打っているとしたら……。


また、あの日の父の台詞が思い返された。

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