絶滅危惧種『ヒト』
病院はこの後大騒ぎになってしまった。

あの日外来にいた看護士や、孝明の身体を解剖した臨床医などが、次々と発病して死んでいったのである。


さらに直樹の直属の上司である竹井教授までが、直樹の目の前で発病して亡くなってしまった。


もうこうなると病院内はパニックである。

この建物の中にいると、伝染するという話が広まり、働いているスタッフの大半が帰宅してしまった上に、

受診の為に来ていた外来患者にも、伝染病の話しが漏洩してしまったのだ。


何か起こる度に、直樹は井上に電話をかけて状況を伝えた。

もちろん自分が吐しゃ物を浴びたこともである。


そして直樹は、井上にあることを提案した。

それに対して井上は、絶対に許さないと止めたけど、直樹はやると決めたのだ。


井上は直樹に向かって、すぐにこっちに来るからそれまで待てと言って電話を切った。


でも直樹はそれを待たずに開始することにして、用意を始めたのである。


不活化しないウイルスで作った、生ワクチンを自分に投与することを……。


どんなに素晴らしい薬も、厚生労働省の認可が下りなければ、使用することは出来ない。

そのくせ認可がおりるまでには、とかく年数がかかるのだ。

そのせいで、日本の優秀な医学者たちが、最先端の医療技術や薬品を、これほど開発しているにも係わらず、日本の医療は外国より大きく遅れているのが現実なのである。

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