絶滅危惧種『ヒト』
井上が直樹のもとに駆けつけたのは、直樹がワクチンを投与した五分後だった。


「おい直樹!」


部屋に飛び込んでくるなり、井上は大声で怒鳴る。


「オマエまだやってないだろうな?」


井上が睨んだが、それに対して、直樹は何も答えなかった。


「オマエ……」



「まぁ良いじゃないか。どうせ何もしなければ、死ぬのを待つだけだ」


直樹はすでに半分諦めていたけど、やはりまだ死にたくはない。


「ふざけるなよオマエ! まだ感染したかどうかなんて分からないだろうが!」


「あのなぁ~あれほどウイルスに精通してる竹井教授が感染したんだぞ。キャリアの吐しゃ物をもろに浴びだ俺が感染してないわけないじゃないか!」


直樹はヤケクソ気味に叫んだ。


「それは……」


「それに、もうワクチンは投与した。今更どうこう言ったところで、後の祭りなんだよ」


「くっ……」


井上は悔しそうに唇を噛んだ。


「まぁ、これで俺が発病しなければ、生ワクチンの有効性が実証されるわけだし」



「アホかぁ、厚労省はそんなの認められねぇよ」


「またか……。いつもいつも、認可は先送りで、患者はみんな海外に行かなきゃ最先端の治療を受けられない」


「何言ってるんだよ。そんなの一部だけだろ」


「いいや、そう思ってるのは、お役所のお偉いさんだけさ」


直樹はイヤミを言った。

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