絶滅危惧種『ヒト』
「ねぇどうかしたの?」


電話を切った聖人が、青ざめた顔で呆然としているから、綾乃は気になって聞いてみた。


「兄ちゃんが……」


息子の顔が歪む。


「何なの?」


「感染したかもって」


「え?」


「今日、兄ちゃんの病院で、例の病気の患者が大勢出て。兄ちゃんはその患者の吐しゃ物を浴び立って」



「そんな……それって……」


綾乃の目の前が真っ暗になった。


最愛の夫に続き、大切な長男までもが訳の分からない病原菌に侵されて、死んでしまうなんて有り得ない。


「母さんしっかりして」


思わずよろけそうになったのを、次男が支えてくれた。


「まだ死ぬって決まったわけじゃない。父さんみたいに大した設備のないアフリカでも、新種のウイルスの感染を止められたんだ。

ここは医療の進んでる日本なんだよ。すぐにワクチンが開発されて、きっと助かるよ」


「そんな気休め言わないでよ! 直樹まで死んでしまったら、私は、私は……」


「大丈夫。絶対に大丈夫だから」


聖人にきつく抱きしめられる。


「すぐに発症するわけじゃない。それまでに絶対ワクチンは出来る」


「ぅぅうううぅうう」


綾乃は泣いた。込み上げてくる涙を止めることが出来なかった。

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