絶滅危惧種『ヒト』
マナーモードにしている直樹の携帯電話が振動する。

普段は仕事中は携帯電話を所持していないのだが、教授もいなくなった今、

井上からの連絡が入り次第出れるように、つねに所持しているのだ。


電話は弟の聖人からである。


直樹はすぐに電話に出た。


『兄ちゃん大変だ!』


「え?」


『今、俺のクラスのヤツから電話があったんだけど、そいつが電話の途中で嘔吐して、そのまま電話に出なくなったんだ』


「そうか……」


直樹は驚かなかった。何となく聖人の名前を確認した瞬間に、そう切り出して来るような予感がしたのだ。


『でさぁ、そいつがその前に、他にも二人死んだって言ってたんだ。だから三人が一斉に死んだことになる』


「そうか……」


『うん』


「ところでオマエは大丈夫なんだろうな?」


『え?』


「いや……今回の細菌は、やはり飛沫感染をするようだから、オマエもあの時近くにいたんだよな?」


『うん。で、それなんだけど、今冷静に考えてみると、さっき俺に電話をかけてきた沢田ってヤツは、俺より藤田さんから遠い位置にいたんだ』


「そうか、じゃあやっぱりオマエも……」


『兄ちゃん、どうしよう? ワクチンってまだ出来てないの?』

「聖人……。すまん。まだ生ワクチンしか作れていないし、それに……」


『それに……何?』


「ワクチンというのは、体内に免疫をつくるものだから、すでに感染してしまっていると……」


『じゃあ治療薬は?』


「すまん。まだだ……」


直樹は呟くように言った。

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