絶滅危惧種『ヒト』
『おい直樹、まずいことになったぞ!』


電話の向こうで井上が怒鳴る。


「知ってるよ。今聖人から電話があった」


『え?』


「光ケ丘高校のクラスメイトが数人死んだってな」


『いや、おい。数人じゃないぞ』


「え?」


『今のところ報告が入っているのは90人くらいだ』


「な……90?」


『ああ、光ヶ丘の一年生と二年生。それに教員も数名……後、その家族と近隣住民も数名だ』



「そんな……」


直樹は言葉を失ってしまった。


いくらなんでも90人とは……。


『三年生が卒業式を済ませていたのが、唯一の救いだったな』


「しかし……生徒だけじゃなく、近隣住民もってなると……」


『間違いなく飛沫感染だな』


「そうだな」


『それと、今のところ聖人の名前は挙がってきていないけど、同じクラスの子が発症してるなら、まず間違いなくアイツも感染しているだろう』


「実はな井上……」


『何だ?』


「さっき聖人からそのことで電話があってな」


『ああ』


「とりあえずここに来るように言ったんだが、まだ何の治療薬も開発されていないのが現実だ」


『ああ確かに』


「生ワクチンを含め、色々考えうることをやってやろうと思う」


『は? オ、オマエ、バカなことを言うなよ』


「何がバカなことなんだ?」


『臨床実験も終わってな』
「そんなの待ってたら、聖人は死んじまうだろうが!」


『そ、それは……』


井上はそのまま黙ってしまった。

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