絶滅危惧種『ヒト』
言わなかったというより、直樹の脳裏に、何かが引っかかったのだ。


何だろう?


直樹はそのまま考え込んでしまった。


おかしい。

そうだ。何かがおかしいのだ。

何がおかしいのか?


それが思いつかない。思い当たらない。

細菌の潜伏期間は約四日。

藤田朋美が死んだのは火曜日……。そして今日が土曜日。

だから光ヶ丘高校で大量発症したのは分かる。


そこじゃない。


そう……頭の中で引っかかっているのはそこではないのだ。

ならどこか?

直樹が必死で考えているうちに、放射線科についてしまった。


直樹は考えるのを止めて、すぐに事前に頼んでおいた放射線技師に、聖人を託す。


すぐに撮影が始まった。


その画像を食い入るように全員が見つめる。


しかし……聖人の内臓にはまったく異常はなく、まだ発病していなかった。


研究者としては、このままどのように発病するのかを知るために、発病に至るまでずっと、引き続き撮影を続けたいところだが、

可愛い弟にそんな実験台のようなことをさせたくない。

ましてや放射線を長時間あて続けるのは危険だ。


実はこのとき、井上も同じ事を思ったが、口には出さなかった。


続いて聖人の彼女にもCT撮影を行なう。


同じように感染していて然るべきなのだが、こちらもまったく異常はなかった。

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