絶滅危惧種『ヒト』
とにかく聖人の発病を食い止めたい。

一旦感染症学科に向かうことにした。

実は感染症学科に行っても、満足な治療をすることは出来ないのだが、

他の科で行なうには、一々許可を貰ったり、お願いしたりしなければならないので面倒くさい。


自分の血液や、発病して亡くなった患者の血液はすでに調べていて、

血液では感染の有無を確認出来ないのが分かっているから、直樹は聖人の採決は行なわなかった。


感染症学科に着いたときに、井上の携帯電話が鳴る。


いつもなら「病院内では電源を切っておけ」と文句を言うところだが、今は直樹も電源を入れっぱなしだった。


「無茶苦茶だ。一気に増えて感染死者は二百人を越えたらしい」


電話を切った井上が首を左右に振る。


「なぜだ?」


井上は全員の顔を見回しながら突然質問をした。


「なぜって、何がだ?」


直樹は意味が分からなくて聞き返す。


「藤田朋美を感染源と思われる患者が今日二百人も出たんだぞ」


「ああ、それで」


「小林孝明が感染源の患者も現時点で三十人以上……」


「だから何なんだって?」


「いいか。一番最初の犠牲者の小林孝明が感染源の患者は、あの時東城医大病院にいた者たちだ」


「ああ、それで?」


「あの日小林孝明が吐いた吐しゃ物の中にいた細菌が、空気中に舞ってその場にいた者たちに付着した」


「ああ、で?」


「あるいは解剖の際に直接医師に付着したモノもある。竹井教授なんかはこれが原因だ」


「ああ」


「じゃあなぜオマエは大丈夫なんだ?」


「俺? それは……マスクをしていたからじゃないかな?」


「あの夜ここにいた者はみんな死んだ。俺と一緒にいた厚労省の林さんも死んだし、あの時カンファレンスに参加したメンバーのうち、竹井教授の近くにいた者もだ」


「そうなのか?」


「なのに、なぜ……俺とオマエは死なないんだ?」


井上は直樹を見つめた。
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