絶滅危惧種『ヒト』
「そんなこと俺が知るかよ!」


直樹は声を荒げる。


また引っかかっているモノが気になってしまった。


そうだ。確かにあの時ここにいた者が全員感染したのなら、自分も感染しないのはおかしい。


「やっぱワクチンを打ったからじゃないのかな」



「いや、オマエはな……。でも俺は打っていない」


井上がゆっくりと首を振る。


「じゃあ何なんだよ?」


「だからこっちが聞いてるんだって」


井上が声を荒げる。



「本当に仲が良いわねぇ」


突然女性が話しに割り込んできた。


驚いて振り返ると、そこに留美が立っている。


「オマ……何でいるんだ?」


直樹はまるで幽霊でも見たように、目を丸くして立ち上がった。


「何でって……アナタが帰って来るのを三日待てって言ったんじゃない」


留美が眉を曲げる。


「いや、でも、みっ……四日じゃなかったっけ?」


「三日よ」


そう言われると、そんな気もするが、直樹としては自分が発病する前に帰って来てほしくなかったのだ。


「いや、そういうことじゃなくて」


「どうせ自分も感染したから、私に伝染(ウツ)さないようにって思ったんでしょ?」


「当たり前じゃないか」


「でもねぇ直樹、もうそんな悠長なことを言ってる場合じゃないでしょ。今日だけで二百人以上の発病者が出てるのに」


「えっ、何で知ってるんだ?」


直樹より先に井上が聞く。



「何でって……。だってもうニュースで流れてるし、大騒ぎになってるわ」


留美はスマートフォンを取り出して見せる。


その検索サイトのトップに、大々的に大量発病のことが取り上げられていた。

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