絶滅危惧種『ヒト』
直樹はすぐに準備をすると、まず最初に聖人に投与した。


厚生労働省に認可されていないというだけではなく、まだろくに正体の分かっていない細菌を、生きているまま投与するのである。


すでに自分には投与しているが、他人にというと話しは別だ。


本当に大丈夫なのかと、不安が襲ってくる。

聖人の腕に注射針を刺した瞬間、思わず息を飲んだ。


すぐに聖人の彼女に投与すると、最後に留美の腕に投与した。


CT撮影をしてから一時間ほどが経過しているが、未だに聖人たちに発病の兆しはない。


しかし感染しているのはほほ間違いないはずである。

もう一度進行状況の確認の為に、CT撮影をしたいところだが、

CTは放射線だけに、そう何度も何度も頻繁に使用するわけにもいかないのだ。


聖人たちに生ワクチンを投与して二十分ほど経った時に、梓の家族が病院にやってきた。


聖人と梓が一階に迎えに行き、直樹は久しぶりに留美と二人きりになった。


「明日だな……」


突然直樹が切り出す。


「え?」


「感染して発病まで、おおよそ四日。俺が看護士の吐しゃ物を浴びたのは、水曜日の昼だ」


「私はワクチンが効くと思う。アナタは死なない」


そう言ってじっと見つめる留美。


一瞬の沈黙の後、二人の唇が重なる。


明日死んでしまうかもしれない……。


その恐怖から逃れるように、留美を抱き締める直樹の腕に力が入った。
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