絶滅危惧種『ヒト』
「兄ちゃん」


聖人が話しかけるが、直樹はへたり込んだままで動かなかった。


自分にとって一番大切な人が、何の予兆もなく突然目の前で死んでしまったのである。


正常な精神状態でいれるほうがおかしいだろう。


目を見開いて動かない留美。


なぜだ? なぜなんだ……。


バレンタインデーのお返しのホワイトデーの為に、直樹は指輪を買っていた。

もちろんプロポーズをする為にである。


残念ながらその直前に、留美の母親が倒れてしまった為に保留になっていたが、

彼女の母親が元気になれば、結婚するつもりだったのだ。


なぜこんなことに……。

なぜなんだ……。


「うぉおおおおおおおおおおおおおおお」


直樹は突然大声をあげた。


「に、兄ちゃん!」


聖人が慌てて兄の身体にしがみつく。


「うわぁああああああ! 何だよ! 何なんだよ! ちくしょぉおおおおおお」


突如発狂したように大声をあげる兄を、聖人は背中からキツク抱きしめた。


家族を迎えに行って、戻って来たら、そこには予想外の展開。

あまりにも残酷な現実を目の当たりにして、梓は震えながら、ただ見守ることしか出来ないでいた。

もちろん梓だけではなく、他の誰もが、ただ状況を見守るしかなかった。
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