絶滅危惧種『ヒト』
イヤな空気を一変させたのは、聖人の携帯電話の着信メロディだった。


母の綾乃が、病院に到着したというもので、梓は聖人にお兄さんのことを任せて、自分が一階のロビーまで、迎えに行くことにした。


「あら、梓ちゃん」


梓の顔を見るなり、綾乃が笑顔になる。


「お母様」


「大変なことになっちゃったわね。梓ちゃんは大丈夫なのね?」


「ええ」


「良かったわ」


「でも……」


「えっ……どうかしたの?」


梓が暗い顔をしたので、綾乃が不安げに聞いた。


「聖人のお兄様の彼女が……」


「えっ、彼女?」


「え?」


「直樹に彼女がいるの?」


綾乃は驚いた顔で見つめる。


「あ、は、はい」


「ちょっとどうなってるのよ。うちの子は!」


「えっ……」


「直樹も聖人も、どうして彼女がいることを私に隠してるのよ!」


「い、いえ、それは私に言われても……」


綾乃が本気で怒り始めたので、梓はあたふたした。

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