絶滅危惧種『ヒト』
「そ、そうよね。そりゃそうだわ。ごめんね梓ちゃん」


「い、いえ……」


「でもね。本当に肝心なことは何も話してくれないのよ。あの子達は」


「はぁ……」


「まったく誰に似たのかしら」


綾乃にボヤかれて、梓は愛想笑いをするしかなかった。


「とにかくお母様、こっちです」


このまま話を聞いていたら、いつまで付き合わされるか分からない。

梓はとりあえず感染症学科に連れて行くことにして、先に歩き始めた。


「ねぇ梓ちゃん」


「え?」


「ところでさっき、直樹の彼女がって言いかけたわよね?」


「えっ、ええ、はい」


「直樹の彼女がどうかしたの?」


「それが……」


梓は言葉に詰まった。そのままストレートに伝えても良いのだろうかと思う。

でも、感染症学科に行けば分かってしまうことなのだ。


「実は、お兄様の彼女さんが、発病してお亡くなりになったんです」


「えっ、何ですって!」


「すみません」


綾乃がまた怒鳴ったから、何も悪くないのに梓は謝った。


「そんな……可哀想に」


「ええ、さっきまであんなに元気だったのに……」


「えっ、さっきまでって……?」


「ああ、さっきまで普通に話していたのに、私の家族が来たので、一階まで迎えに行って、感染症学科に帰ったら、死んでて……」


「そう……」


綾乃はまだ会ったことのない、息子の彼女のことを想い、暗い気持ちになった。
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