絶滅危惧種『ヒト』
「母さん……」


「直樹。しっかりしなさい」



「分かってるよ。でも……」



「いいからこのお嬢さんを、ベッドかソファーに運んであげなさい。ほら、聖人も手伝って」


「う、うん……」


母に命令されて、聖人は頷いた。



「それにしても……恐れてた通りになっちゃたわね」


留美の身体を担ぎ上げようとしている直樹に向かって、綾乃が呟く。



「ああ……」


「もうワクチンは出来ているの?」


「いや、まだだ」


直樹は首を振った。


「まだって……。今まで何をやってたのよ?」


「何をって……仕方ないだろう。母さんには分からないだろうけど、この細菌は死なないんだよ」


「じゃあどうするの?」


綾乃が詰め寄る。



「どうって言われても」


「外で待っている梓ちゃんのご家族はどうするの? このままずっと、ただ待っててもらうの?」


「いや、それは」


「それは何?」


「それは……」


「しっかりしなさい桜小路直樹! あなたは桜小路昇の息子でしょ!」


普段大きな声を出すことのない綾乃が声を荒げたから、直樹も聖人も驚いた。
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