絶滅危惧種『ヒト』
マナーモードにしている直樹の携帯電話が振動する。


直樹はポケットからそれを取り出して、相手を確認した。


ディスプレイには井上達弘の文字。


直樹はその文字を見続けたまま、通話ボタンを押さなかった。


誰とも喋る気が起きない。


かなり長く振動したあとで、ようやく電話が静かになった。


今頃井上は大わらわなのだろう。

だが、最愛の人を亡くし、生きる希望のなくなった今の直樹にとっては、もう全てがどうでも良いことだった。


直樹は携帯電話の電源を切ると、横たわった留美の顔を見つめる。


彼女の両親に、何と言って報告すれば良いのだろう……。


大病を患って、病院のベッドの上で回復に努めている彼女の母は、娘の死を知ってどう思うのだろう……。


胸が痛い。


涙が込み上げて来た。



「おい。桜小路聞いたか? 例の患者が二百人を越えたって……。おい。橋本……どうかしたのか?」


突然部屋に、同僚の栗原裕司が入ってきて、声をかけてくる。



「死んだよ……」


「え? 死んだって何で?」


「例の細菌で……」


「マジか? 嘘だろ?」


栗原は留美の顔を覗き込んで顔をしかめた。
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