絶滅危惧種『ヒト』
井上は大渋滞に巻き込まれた車の、ハンドルを握ったまま、さっきからずっとイライラしていた。
ついに恐れていたパンデミックが始まってしまったのである。
それと同時に、国立感染症研究所内にまで、大量の発病者が出てしまい。
何と今回の細菌に携わっていた全職員が死亡した。
この為、治療薬の開発は全くもって白紙になってしまったのである。
つまり、ここまで調べたであろうデータも、誰にも引き継げていない状況だから、新しく取り組む医師も、ほとんど一から調べなければならない。
さらには、厚生労働省の中でも、大量の感染者が出てしまったのだ。
こうなってくると、少なからず最初から携わっているのは、直樹だけなのだが、昨夜から全く電話が繋がらないのである。
直属の上司も死んでしまった今、井上に直接命令を下す者はいなくなった。
なので井上は、東城医大病院を目指して車を走らせていたのだが、
先程から渋滞にはまり、まったく車が動かなくなってしまったのだ。
こうなったら車を乗り捨てて、電車のほうが早い。
井上はちょうど駐車場になっている場所だったこともあって、車をそこに止めて駅を目指すことにした。
そのとき……。
「あれぇーーー。井上さんじゃん」
声をかけられて振り向くと、直樹の弟の聖人だった。
聖人は自転車に乗っていて、同じくその彼女と、母親も一緒にいる。
「井上くん。あなたは大丈夫なのね?」
直樹の母親がホッとしたような顔で聞いてきた。
「ええ」
井上もあのとき東城医大病院にいた三人が、まだ発病していなかったことにホッとして、思わず頬が緩む。
「でも、直樹が電話に出ないんです。それで今、東城医大病院に向かってたんですが、まったく車が動かないので、電車にしようと思ってたところなんです」
「電車はまずいんじゃないの?」
聖人が口を挟んだ。
ついに恐れていたパンデミックが始まってしまったのである。
それと同時に、国立感染症研究所内にまで、大量の発病者が出てしまい。
何と今回の細菌に携わっていた全職員が死亡した。
この為、治療薬の開発は全くもって白紙になってしまったのである。
つまり、ここまで調べたであろうデータも、誰にも引き継げていない状況だから、新しく取り組む医師も、ほとんど一から調べなければならない。
さらには、厚生労働省の中でも、大量の感染者が出てしまったのだ。
こうなってくると、少なからず最初から携わっているのは、直樹だけなのだが、昨夜から全く電話が繋がらないのである。
直属の上司も死んでしまった今、井上に直接命令を下す者はいなくなった。
なので井上は、東城医大病院を目指して車を走らせていたのだが、
先程から渋滞にはまり、まったく車が動かなくなってしまったのだ。
こうなったら車を乗り捨てて、電車のほうが早い。
井上はちょうど駐車場になっている場所だったこともあって、車をそこに止めて駅を目指すことにした。
そのとき……。
「あれぇーーー。井上さんじゃん」
声をかけられて振り向くと、直樹の弟の聖人だった。
聖人は自転車に乗っていて、同じくその彼女と、母親も一緒にいる。
「井上くん。あなたは大丈夫なのね?」
直樹の母親がホッとしたような顔で聞いてきた。
「ええ」
井上もあのとき東城医大病院にいた三人が、まだ発病していなかったことにホッとして、思わず頬が緩む。
「でも、直樹が電話に出ないんです。それで今、東城医大病院に向かってたんですが、まったく車が動かないので、電車にしようと思ってたところなんです」
「電車はまずいんじゃないの?」
聖人が口を挟んだ。