絶滅危惧種『ヒト』
「えっ、何でだ?」


「俺たちも渋谷にいてさぁ、電車で帰って来ようと思ったんだけど、電車の運転士さんが運転中に発病したら、大事故になっちゃうでしょ?」


「あ、ああ、確かにそうだな」



「だからレンタサイクルを借りて帰ってるんだ」


「そうか。確かにそれが正解だな」


井上が頷く。


「じゃあこの自転車を使いますか?」


梓が跨っていた自転車を降りた。


「え? でも、君たちはどうするんだ?」


「私は聖人の後ろに乗ります」


梓はそう言って微笑んだ。


「それは助かるよ。なんせ国立感染症研究所の担当研究員が全員死んでしまったので、頼みの綱はもう直樹だけなんだ」


「ちょ、全員って……」


聖人が驚いて聞き返す。


「全員なんだ。今回の細菌を研究していた全員が発病した。だから少なからず今回の細菌のことが分かっている医者は、もう直樹しかいないんだ」


「でも、兄ちゃんも……」


「いや、確かに電話は繋がらないが、アイツは絶対に生きている」


井上は自信に満ちた顔でそう言い切った。


「何でそう思うんですか?」


気になった梓が口を挟む。


「それは……俺が死んでないからさ。アイツと同じように細菌に携わり、一緒にいた他の者が全員死んだのに、俺は未だに発病していない。だから直樹も絶対に発病していないはずだ」


井上はそう言って頷いた。

< 158 / 223 >

この作品をシェア

pagetop