絶滅危惧種『ヒト』
そう言われればそうだと、聖人は思った。


それを言ったら、聖人や梓だって最初に梓の叔父が発病したとき、東城医大病院に行ったのである。


これほどの感染力を持っているのなら、すでに発病していて然るべきだろう。


いったい何故なんだろう?



「とにかく言ってみるから」


聖人が考え込んだ瞬間。井上は自転車に跨ると、そのままこぎ始めた。


「あっ、ちょっと……」


聖人はその背中に向かって、声をかけようとしたけど、それをやめた。

すぐに自分たちも後を追おうと思ったのだ。



「俺たちも東城医大病院に行こう」


「そうね」


梓が頷いた。


ここからなら、自宅に帰るより病院に行くほうが近い。


「お母様行きましょう」


「ええ、そうね」


梓は綾乃に声をかけると、聖人の後ろに乗る。


すぐに二台の自転車は、井上の後を追い始めた。


井上は本気で漕いでいるのだろう。みるみる離されて行く。


でも、二人乗りの聖人には、それを追うだけのスピードは出せなかった。
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