絶滅危惧種『ヒト』
感染症学科に向かおうと、病室を出た直樹は、ナースステーションの前を通り、エレベーターに向かう。


「先生」


突然呼びかけられた。



振り向くと少し向こうの病室の前に、中学生くらいの女の子が立っていた。



「君は……?」


「先生。どうなっちゃったんですか? いっぱい人が死んじゃってるし、みんないなくなっちゃってるし」


少女が泣きそうに顔を歪めた。


「君はなぜ?」


「え?」


「いや、みんな死んでるのに、君は生きてるから」


「そんなの分かりませんよ。お母さんのお見舞いに来てたら、急に騒がしくなって」


「えっ……と、お母さんは?」


「います」


少女は病室を指差した。


直樹はすぐに少女の指差した病室に入る。


中には40歳代半ばくらいの女性がいた。


「大丈夫ですか?」


「ええ、私は何ともないんだけど。ここでもいっぱい出ちゃったんですね」


そう言いながら女性がテレビに視線を向ける。


そこには『謎の病原体に感染者大量発病』のテロップが出ていて、映像は街中に倒れている人を映していた。


ふと患者の枕元を見ると、女性の名前は原美加子と書かれている。


「あの、原さんはいつから入院を?」


「一昨日です。急性の腸炎で」


「そうですか」


「あの……」


「はい?」


「もう伝染っちゃってますよね?」


「え?」


「これだけ感染者が出ちゃってたら、もう私も……」


美加子は不安な顔で見つめた。
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